栄村現地レポート

 宮城県沖を震源とした巨大地震が起きた翌日、3月12日午前3時59分、長野県北部を震源に震度6強の地震が襲った。この地震は、長野県栄村、新潟県十日町市、津南町などに大きな被害をもたらした。特に被害が集中しているのが、栄村の青倉集落と小滝集落。青倉集落の裏山にあるトマトの国(温泉施設)脇に通る中条川上流部が大きく崩れ、土石流となって いる。この小滝集落‐青倉集落‐トマトの国‐松之山温泉まで地図で見るときれいな一本線になっている。地震が通った道がはっきり見える。

栄村では、ボランティアによる災害救援、復興支援を行うために3月17日に栄村復興支援機構 「結い」を立ち上げた。メンバーは、栄村社協、長野県社協、NPO法人栄村ネットワーク、NPO法人GO雪共和国、みゆき野JC、中越防災安全推進機構、 栄村の7者により、3月16日から打ち合わせを行い、19日からの週末のボランティアの受け入れに向け動いた。

4月になると、片づけ等のボランティアニーズが落ち着いてきたことか ら、次のステップへの移行を提案。「人海戦術による人的支援」から「知恵の支援」、「個人への支援」から「集落への支援」という動きが必要と発言をさせてもらった。つまり、大量にボランティアを送って、気持ちと実働を支える段階から、どう生活再建をするのか、どんな支援制度があるのかという知恵と情報をしっかり伝えていくことが大事だと思ったし、栄村のようなところでは再建の問題を個人で考えるのではなく、集落として 考えていくことが必要だと思ったからだ。こういう村での再建は、家に限らない、農地や集落道、集落の仕事、行事など、個人単位ではなく集落単位での再建が必要なのだ。

仮設住宅問題が一応の一区切りを迎え、今後の復興活動について現段階での整理をしておく。(と言っても、村営住宅の入居者に罹災証明が届いていない、まだ自身の集落への仮設住宅建設を求める声はおさまっていない)
集落ごとに通常の集落運営体制に加え、復興事業というとてつもなく大きい集落としての仕事を担う体制づくりが進んできている。最も地震被害の大きい青倉集落 では、復興に向け大きな動きがあった。地震直後、集落の公民館が倒壊し、集落の人たちが集まれる場所がないということを危惧した栄村ネットワークは「青倉公民館再建基金」を設立した。その基金は各メディアで大きく取り上げられ、4月29日現在で672万円に達した。4月末にはそのお金を使 い、仮設公民館を建てることができた。コンテナを2階建てとした大変立派なものだ。4月29日には、その仮設公民館を会場に集落総会が開催され、その場で復興委員会の設置などが決議された。また小滝集落でも、4月28日に若手中心に復興委員会が設置された。

この災害復興に関していくつかNPOによる支援でも考えていかなければいけない点がある。

 一つは専門家による知恵の支援のコーディネートである。農業を中心にではあるが4月26日には信州大学の木村先生をお迎えしての栄村ネットワークの勉強会、4月29日には信州大学中山間地域研究プロジェクトによ る長野県北部地震・栄村現地報告会が開催されるなどの今後の対応について学び、議論する場があった。今後この信州大学中山間地域研究プロジェクトが専門家 チームとして、全面的なバックアップをしてくれることを期待したい。
 二つ目は、柔軟な財政的支援を獲得することだ。当然、村や県の行政としての復旧事業は行われるが、それは「現在ある制度・事業内」での対応にすぎない。「制度の視点」に立つのではなく、「地域の暮らしの視点」に立ちに「現在ない制度・事業は作る」という意気込みでの政策提案力が求められる。中越地震の時 とは違い、東日本大震災では、地理も文化も課題も違う地域が被災地となっている。どのような予算措置・事業立てをするのかはまだわからないが、栄村としてはこういう支援が欲しいということを強く訴えていく必要があるのではないかと感じる。上記の専門家チームにはこの点に対しても強力なバックアップを期待したい。
 三つ目は、集落に寄り添うコーディネーターの必要性である。その集落について学び、人間関係を強め、住民の参加を促し、外部支援を上手にコーディネートする役割だ。集落復興は、集落に過度な負担を強いることは間違いない。既に多くの区長さんは疲弊していることだろう。外部とのやりとりや裏方作業を支えてあげることも大事である。栄村にはこのコーディネーターが不足していると感じる。今現在、栄村のみなさんと人間関係がなくてもいい。復興の道のりは長い (というか終わりはない)中で、継続的に集落に関わる人材が必要だ。

中越の教訓とは何なのか最近考える事が多い。住宅や農業の再建でそれぞれ特異な取り組みを行ったことは確かだが、つまるところ「中間支援組織のコーディネーターとしての活動」と「柔軟な財政支援としての復興基金」、それを支える「県の復興支援チームの活動」ではないかと思う。基礎自治体は財政支援をお願いする立場である以上、県という広域自治体の役割は大きい。現場で「暮らしの再生」に取り組む、地域住民と役場、コーディネーターを支える重要な役割を長野県には期待したい。


(文責:社団法人中越防災安全推進機構 復興デザインセンター 阿部巧)